独ビットブルクにおける交通の利便性向上に向けた取り組み
ドイツでは過疎化や高齢化の進行に伴い、特に中山間地域における人々の移動手段の確保が課題となっています。2020年初頭、トヨタ・モビリティ基金はドイツでもとりわけ過疎化が進む地域のひとつである、アイフェル地方ビットブルク・プリュム郡とその周辺地域において、住民の移動や困りごとを支援するプロジェクトを立ち上げました。
ビットブルク・プリュム郡は、農業に大きく依存しているのが特徴です。2020年時点で総人口は約10万人で、ビットブルクの町を中心に多数の小さな村落を含む234の村落コミュニティが存在し、同地域はドイツ内でも最も過疎化が進む地域のひとつです。それ以外にも、高齢化、農業依存型の経済などの課題を抱えており、この地域をプロジェクトの候補地に選定しました。
ドイツの田園地帯の状況
(注:緑が濃い地域ほど人口が少なく、農林地の割合が多く、都市部へのアクセスが悪化)
(National German Research Instituteより引用)
加えて、2020年に発生した新型コロナウィルスの感染拡大、2021年にドイツ西部で発生した大規模洪水などの影響により同地域における移動手段はますます制限されており、支援へのニーズが一層高まっています。
地方自治体や企業が進める取り組みを支援
住民の移動や困りごとなどの課題解決に向けて、以下の取り組みを支援してきました。
①住民とボランティアをつなぐ「ローカルヘルパー」
ドイツのエルケーニッヒ社と共同で、日常生活で「支援を必要とする人」と「支援が可能なボランティア」をマッチングする無償アプリの「ローカルヘルパー」を開発し、2020年から提供しています。
ボランティアの方々は誰でも、支援可能な内容を「ローカルヘルパー」に無料で登録が可能です。一方で、住民は「重い荷物を運んでほしい」「話し相手がほしい」「家事を手伝ってほしい」「近くの病院まで送ってほしい」といった依頼事項をアプリに入力することで、ボランティアの紹介を受けることができます。
2023年5月には本アプリのソースコードをGitHub(※)上で公開しました。これにより他地域でも本アプリを無償で活用できるほか、コールセンターなどがアプリを運用することで、スマートフォンなどのインターネット接続を持たない住民にもサービスを提供することが可能となります。
※GIT-HUBについて・GIT-HUBは米国のGitHub, Inc.が開発したオープンソースプロジェクトで使用するプラットフォーム
(出展:GIT-HUB website https://github.co.jp/about )
・GIT-HUBはGitHub, Inc.の登録商標です
教育機関向けの配車アプリ
また、シュパイヒャー体育館とトリーア大学の学生専用にカスタマイズした配車アプリを導入。この配車プラットフォームは、生徒・保護者間で相乗り機会をマッチングし、公共交通機関の選択肢が限られている地域での移動を支援しています。
②デジタル・ライドシェアリングベンチ
ライドシェアリングベンチは、相乗りを希望する人のために用意された専用ベンチです。ベンチの隣に設置された看板で行き先を示し、ベンチに腰掛けて待つことで、同じ目的地に向かうドライバーを見つけることができます。
考案者のウルスラ・ベレンス氏( 地域の移動支援を行う団体Caritas Speicher)のコンセプトをデジタル化したのが「デジタル・ライドシェアリングベンチ」のアイデアです。デジタルへの進化により、ライドシェアリングベンチが持つ関係性の維持という機能に加え、マイカーを持たない人々のモビリティへのアクセスを改善します。
ライドシェアリグベンチをデジタル化した「durch die Eifel」アプリの導入により、ユーザーは移動開始前に走行ルートを登録し、潜在的な同乗者とつながることが可能になりました。アプリの実証実験では1日で615件もの相乗りが提供され、公共交通機関の選択肢が限られている地域における移動課題解決への可能性を示しました。
(気候保護ポータルBitburg-Prüm:Eifel経由のアプリ (rlp.de)より引用)
③オンデマンド・シャトルバス
トリーア市公共事業会社およびドイツ鉄道の子会社 IOKIと協力し、2020年の洪水により被害を受けた公共交通機関を補完する、オンデマンド・シャトルバスサービスを開始しました。完全電動のオンデマンド・シャトルバス3台を導入し、ユーザーは総合アプリ「Portazon Smart City Super App」を通じて予約可能です。
オンデマンド・サービスには500名以上のユーザーが登録しています。
これらのプロジェクトは、ビットブルク・トリーア地域における幅広いデジタル化の取り組みの一環であり、地方自治体による、市民への各種サービスのシームレスな統合を支援してきました。
今後も地方行政や公共交通機関などと協力し、医療サービス、公共事業、モビリティ課題への対応など、総合的なサービスへの支援が必要であると感じています。